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限りなくテキトーな銃器の鋼製部位の表面処理話

せっかくブログを作成……というか再開したので、一度何か書いてみようと思い立ったが、最近はイベントも軒並み中止されている上に出かけるのも難しい状態になっている。なので、結果的に生じた時間になぜか調べた現代の銃-ミリタリやLE、SD用途のもの-の鋼製部位の表面処理について少し書いてみようと思う。

初めに断っておくが中の人は銃器業界や金属界隈の人間ではないので、以下の内容はインターネット上で入手できる情報をかなり適当にまとめたものになっている。もうちょっと上級アカウントであれば突っ込みを期待する手もあるが、弱小であるので訂正されることも恐らくない。

 

さて、言い訳も済んだので本題だが、先も書いた通り今回は銃器の鋼製部位の外観に用いられる表面処理について、主に防錆方面からいくつか挙げてみたい。人が直接取り扱い、あらゆる環境に持ち込まれる銃の金属部品、特に主要な部位に用いられる鋼は常に錆との闘いだったといっても過言ではないだろう。本当はここから無駄に壮大な前置きで表面処理について風呂敷を広げようと思ったが、畳めずに知識不足を露呈するだけなのが目に見えていたのでおとなしく紹介するだけにしておく。また、各処理の説明についても冗長になってしまったので、最後にざっくりまとめて置くことにするので、そこだけ見れば最近の主な表面処理はある程度知ることができると思われる。

 

リン酸塩皮膜処理

現代銃の鋼鉄部位に対する表面処理の定番と言えるのは恐らくPhosephate treatment、リン酸塩皮膜処理と呼ばれるものであろう。化成処理という方法のひとつで、一般的には「パーカーライジング」等と呼ばれ知名度としても高い方だと思われる。主に鉄表面と、リン酸と金属イオン等の水溶液である処理液との反応によりリン酸塩等の皮膜を析出させ、この不導体皮膜により鉄と酸素の反応を抑制する。処理設備は比較的単純で後発と比べればコスト面で優れており、再処理についても容易に行えるのが特徴と言える。ただ、形成される皮膜は連続性がなく、防錆目的としては処理後に防錆油を塗布して初めて完成するので、油が切れた場合はその機能を十分に発揮しないという欠点がある。塗装の密着性を向上させる効果もあるため、近年の工業製品向けとしてはどちらかというと製品への塗装前処理としての需要が主となっているようだ。

 

アルカリ黒色酸化皮膜処理

先の項でリン酸塩皮膜が定番と書いたが、本邦を含めて更に歴史のある表面処理としてBlack oxideと呼ばれるアルカリ黒色酸化皮膜処理がある。これもリン酸塩皮膜処理と同様化成処理のひとつで処理液との反応で表面に酸化被膜を析出させるものだが、防錆皮膜としてはそれほど強靭ではなく現代の銃での使用は少ない。ただしその表面の光沢は美観に優れ、また防錆油の塗布をこまめに行えば長期の使用に十分耐えるので、親戚分の処理であるいわゆるブルーイングと共にその処理が主流だったころの銃及びその雰囲気を求めたもの、美観を重視したライフル、散弾銃等に用いられている。

 

塩浴軟窒化処理

リン酸塩皮膜処理に代わり現代の主要な企業が製造する銃の表面処理として主流になっている、と思われるのがNitridingというのもの。直訳すると窒化なのだが、銃向けとしては主にSalt Bath Nitride、つまり塩浴軟窒化処理が用いられている。処理の名称としては時折Black Nitrideと呼ばれていることもあるが、商標としてはいくつかある。例えばTUFFTRIDE、TENIFER、MELONITEといったものがあるが、これらはすべて同じ処理である。調べた限りこれらは地域によって違う名称で呼ばれているようだが、全て同じ企業の商標らしい。ただし日本のみ権利か何かで揉めたらしく、国内企業の商標としてイソナイトと呼ばれている。他にもいくつか商標名があるようだがここでは省略する。

さて、この塩浴軟窒化処理というのは一般的には熱処理に区分され、空気を連続して吹き込んでいるシアン化物等の塩浴を用い、鋼表面への浸炭及び窒化により化合物層を形成させるものである。化合物層が鋼の耐摩耗性及び耐食性を向上させ、また化合物層以下にも窒素を侵入させ疲労強度を高める。焼き入れに比べて低温となる600℃以下での処理のため寸法変化が少なく、仕上げの手間や寸法公差上の考慮を軽減できる。またQuench-Polish-Quenchという酸化冷却後に研磨、再度酸化処理するという工程を追加すれば、新たに酸化鉄層を生成し耐摩耗性や耐食性を更に向上させることもできる。この処理は上記の通り寸法変化の少なさが特徴と言われるが、化合物層が膨張方向に成長し、また低温といえど熱処理であり鋼製品の製造時に生じた内部応力等による寸法変化も起こりうるため、場合によっては設計段階でこれらの変化を考慮する必要性が生じる。また、塩浴のシアン化物というのは有名どころで言えば青酸カリ等のことであり、当然人体に有害で環境への影響も大きいためその管理には注意が必要で、より安全性の高い塩浴への変更や他の軟窒化処理を用いる場合もある。

 

蒸着処理

近年、特に民間向けのカスタム用銃部品に一部の工具に見られるような黄金や銅のような色合いの表面処理が施されているものを見かけるようになった。これに用いられているのがPhysical Vapor Deposition、物理蒸着法と呼ばれる手法で、固体のコーティング素材を気化させて製品表面にその薄膜を形成するものである。乾式あるいは真空めっきに区分されるPVDにはいくつかの方法があるが、銃用部品では真空中でコーティング素材の金属をプラズマ等で蒸発、陽イオン化させ窒素ガス等を導入して反応させた上で、電圧を加えて陰極とした製品に衝突させて堆積し成膜するイオンプレーティング法が使用されていることが多い。ゴールド系の窒化チタン膜、ローズゴールド系の炭窒化チタン膜、コッパー系の窒化チタンアルミ膜等素材の金属によりいくつかの色があるが、それぞれに硬度や耐摩耗性、耐食性等の違いがあり、特性や場合によっては色の選択肢として利用される。また純正でも最近流行の茶色系バリエーションは色味を調整したPVD処理が主に用いられている。

PVD膜のひとつにDLC、Diamond Like Carbonというダイヤモンドに似た特性を持つ炭素の膜がある。PVDでは最も硬度の高い成膜が可能で、耐摩耗性や摩擦係数でも優れた特性を持つため銃用部品向けにも注目されつつある。DLCの場合は成膜にPVDを用いる場合のほか、コーティング素材を含むガスの反応を用いるChemical Vapor Deposition、化学蒸着法により成膜することも多い。

全般として薄膜な上に高性能かつ付加機能も多いが、あくまで表面をコーティングするものなので、長期使用や強い摩擦などで剥離する場合もある。

 

その他(塗装)

いわゆる塗装というものも間違いなく表面処理であり、めっきと同じような処理と言えなくもない。ただ、銃に対する塗装というと、一般的には先に挙げた表面処理の上から主に色付けとして行うイメージが強いと思われる。しかしながら、近年の表面処理最強談義で必ず出てくる商標名Cerakoteはそれまでの塗装とは一線を画す処理として注目されており、ここでは特にこの処理に関しての項目とする。ちなみにメーカーによれば塗装ではなくコーティングだが、特に線引きがあるわけではないのでここでは区別しない。

さて、実際に検索してみても具体的にどのような理屈で高い性能を得ているのかが今一つはっきりしなかったが、メーカーによれば薄膜のPolymer/Ceramic複合コーティングとされており、成分的に恐らく樹脂と何らかのセラミックの混合で、ここでいうセラミックとは工業用品としての化合物の粉末のようなものだと考えられる。性能としては、製品に対する高い密着性や耐熱性、防錆性などほぼすべての面で従来の表面処理の上位互換とされている。また、表面の材質を変換する他の処理と比べれば塗膜分の厚みができるが、薄膜で機能するので通常はほとんど問題にならない。しかし、他メーカーの検証によればセラミック成分がほぼ存在せず、主成分はほぼエポキシ樹脂なのではという疑惑であったり、メーカーのテストはやや誇張なのではという疑問も見られた。とはいえエポキシ樹脂塗料自体は密着性や耐食性に高い実績があり、実際の製品でも評価されているので成分が何であれ性能面では特に気にする必要はないのかも知れない。なお、仮にこれがエポキシ樹脂であれば、検証したという他メーカーの製品であるDuraCoatも同様にエポキシであり、他にも同様のコーティングが存在するようだ。また、性能面以外ではコストの問題があり、通常製品への処理を業者に依頼すると概ね100ドル程度はかかると言われている。製造工程自体に機械による処理を追加すれば低コストにできるかも知れない。

この項の初めに表面処理最強談義と書いたが、実際検索して見ると○○VS○○といった記事や動画が多く見つかる。しかしながら塗装する方式の処理に関して言えば、競合するものとは少し違うのではないかと考えている。メーカーや紹介記事の処理の説明を見ると分かるが、元々の塗装は密着性に悪影響があるので剥がしていることもあるが、基本的には脱脂を十分に行うのみで既存の処理の上からスプレーしているのがほとんどである。特に鋼製部品製造後に他の処理を行うことなく塗装に入るというのは考え辛く、また見当たらなかった。つまり塗装の形で行われるこの処理は排他的なものではなく、目的や予算を考慮して付加するかどうかを選択するというのが正しい認識ではないだろうか。

余談になるが、本来は防錆が主目的ではないが同様の機能を発揮するために利用される処理として固体潤滑処理というものがあり、例えば上記のPVDも本来はこの処理だが、他に固体潤滑材を塗布する場合もあり、これは上記の塗装と概ね同様の付加処理となる。

 

 

特に最後の項目は私的な思いも混入してかなり長い記事になってしまったが、以上で最近の主な表面処理については網羅できたと思う。表面処理も例えばステンレスの話とかめっきの話、最近では鋼以外の金属も多いのでその処理等々言い出すときりがない。また、説明の間違いや項目の抜けもあるとは思うがとりあえず今回はこれ位で。最後に各処理を簡単にまとめておく。

 

化成処理

  • リン酸塩皮膜処理 別名パーカー処理等 現代までの幅広い銃 防錆油必須
  • アルカリ黒色酸化皮膜処理 主に昔の銃 美観 ブルーイングは親戚

 

熱処理

  • 塩浴軟窒化処理 名称が多い 最近の銃全般 硬くて錆に強い QPQで更に強化可能

 

乾式(真空)めっき

  • 物理蒸着法 アフターパーツや純正のFDE等のカラバリに多い 光沢を抑えたものもある
  • 化学蒸着法 同上
  • DLC 蒸着でできる最も硬度の高い処理 G社Gen5等はこの系統
 
高性能塗装(コーティング)
       少数であれば処理が簡単 製品を選ばない 強い 色が自由 純正オプションや入手後に処理