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写真と長くなりそうな話の物置

微光暗視装置の解像度

今日びは少し調べれば色々と情報が出てくるので資料的な意味はほとんどないが、何となく調べたことを備忘録として残しておく。

今回は特に表題についての話で、増幅された光をどれだけ細かく表示できるのかを見てみたい。とはいえ例によってネット上で適当に検索した内容をまとめた形なので、あまり正確ではないかもしれないという予防線は貼っておく。

 

 

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あくまで参考図

 

 

今回話を進めるにあたり、まず簡単に現在の微光暗視装置の構造を書いておく。詳細は容易に検索可能なので割愛するが、流れとしてはまず対物光学系から入射した光線が光電陰極に衝突し、そこから電子が放出される。その電子は電圧により加速されつつ次にMicro Channel Plateと呼ばれるガラスに無数の貫通した開口部のある形のプレートに入り、電圧を加えられたMCPの各開口部の側壁に衝突しながら進むことで電子を増幅させていく。増幅された電子は更に加速され最終的に蛍光面に衝突し、電子の量に応じた光が出力され、その光が接眼光学系を介して暗視装置の像として取り出されることになる。通常、光電陰極から蛍光面、もしくは光ファイバー板までがImage Intensifier Tubeという形でまとまっており、このIITが微光暗視装置の性能を左右する中核部位となる。

本題の暗視装置の解像度であるが、一般的に光学系はIITより高い解像度なので基本的にはIIT内にあるMCPの無数のガラス管状の開口部の数に左右されることになる。実際にはそれらを組み合わせたデバイスとしての実効解像度は更に低くなるそうだが、今回はIITの性能を理論上の解像度として扱うことにする。

 

では実際の微光暗視装置の解像度だが、代表として比較的有名で普及しているであろう米国のPVS-14を取り上げようと思う。米国以外でも広く用いられている単眼型の微光暗視装置で、本邦でも同等品と思われるJGVS-V8が使用されている。先述の通り微光暗視装置の性能は大半が中身であるIITで決定されるため、外観が同じでもIITの種類によって性能が異なる。ここでは例として現在用いられているであろう程度のIITの性能を仮定し、解像度64lp/mm、SN比が32でFOMが2000程度、有効直径18mmの管とする。今回の話ではほとんど関係ないが簡単にここで用いられる単位を説明すると、まずlp/mmは1mmあたりに明暗1ペアの線がいくつ確認できるかという数値で、この場合は1mmあたり64ペアという事になる。次にSN比は信号とノイズの比で、数値が高いほど信号に対するノイズが少ない像となる。FOMはこのlp/mmとSN比の積で、微光暗視装置の性能を示す指標のひとつとして用いられる。

さて、既に解像度として64lp/mmという数値が出ているので話が終わりそうだが、これについて少し書いてみたい。偵察などで映像機器のモニタ画像などから目標を検出する際の基準としてJohnson Criteriaという概念がある。1950年代に最初に発見、検証された基準で、画面内の目標が占める有効解像度によって判定できる要素をカテゴリ分けしたものになる。カテゴリは4つあり、

  • Detection 探知 目標を発見できる
  • Orientation 方向 目標の縦横を判定できる
  • Recognition 認識 目標の種類を判定できる
  • Identification 識別 目標の特徴を判定できる

として分けられている。監視装置などの性能評価の際、特にOrientationを除いたDRIの3つが用いられることが多い。これらのカテゴリに対応するラインペア数はそれぞれ、

  • D=1+-0/25lp
  • O=1.4+-0.35lp
  • R=4.0+-0.8lp
  • I=6.4+-1.5lp

であり、目標の短辺がこの数値を占めていれば、50%の確率でそれぞれのカテゴリの要素を判定できることとされている。つまり、表示画面内で目標が例えば4lp程度を占めていれば、50%の確率でその目標が車両なのか人間なのかが判定できるということになる。

この概念を利用すると、理論上の暗視装置の目標判定能力もある程度理解することができる。例えば今回例として挙げたPVS-14の性能は、IITの有効径が18mm、解像度が64lp/mmとしてあるので、計算上IITとしては最大で1152lpの映像が得られることになる。また、通常の仕様では視野角は固定された肉眼の左右方向と同等程度の40°とされているので、1152lpで40°の範囲を表示することになるが、ここから軍事用途でよく用いられるmilによる計算を用いて距離に応じた判定能力を調べることができる。milの定義は実用上問題のない程度に簡略化されており、西側諸国では基本的に360°=6400mil、そして1km先の1m幅の角度が1milとされている。これを使用し、まず40°を約711milとすると、1152lpは1milあたり約1.62lpとなる。ここから目標を175cmの人員とした場合の判定距離はそれぞれ、D=1080m、R=270m、I=169mとなる。先の通りこれは1/2の判定率で、また実際の解像度はもっと低く、かつSN比の通りノイズが一定の比率で加わるのであくまで理論上のIITの性能となるが、「何かいる」から「これは恐らく友軍の人間だ」までにはかなりの距離差がある事は分かると思う。

 ちなみに、lp/mmは先の通り1mmあたりのラインペア数であるが、これは当時のCRT画面での結果であり、撮像素子あるいはディスプレイで表すと1lpは単純に2画素に相当すると言われている。つまり64lp/mmは128画素/mmと言い換えられる。IITの有効径が18mmとすると、単純計算で1152lpは2304画素ということになる。こうやって画素数で表すと性能がどの程度のものか何となくわかりやすくなるかもしれない。

 

というわけで甚だ簡単ではあるが、暗視装置がどれくらい細かい映像を生み出せるのかという話であった。本当は最後にデジタル機器等と比べた性能の話を加えようと思っていたがうまくまとまらなかったので省略した。また、何度も書くが上記の数値はあくまで計算上の理論値で、実際は光学系との組み合わせやノイズ、肉眼同様自然の背景や偽装などの影響で通常はこれより低い性能になる。

 

 

余談になるが、従来のIITを用いる方式の代替としてデジタルNVDという考えがあり、デジタルカメラのような構成で置き換えることが研究されている。デジタル化により構成の自由度が増し、他のデジタル機器との親和性向上にも有効な手段になる。実際、高感度の撮像素子や小型の液晶画面等、個々の技術では現在の暗視装置と同等の性能を発揮できると思われるデバイスも多い。しかしながら、それらの組み合わせ、小型化、使用時間等の要素をクリアするにはまだ技術的、コスト的に難しいと言われている。民生でもVRヘッドセットのような機器も増えてきているので、将来的に実用的なデジタルNVDも出てくるのか注目したい。