眼鏡収納箱

写真と長くなりそうな話の物置

突発企画・タクティカルサングラスYT-001簡単レビュー

市販されて結構時間が経ってしまったが、山本光学からSWANSブランドとして発売されたサングラスであるYT-001を触った感想を少し書いてみた。

 

今回の画像の色味が若干おかしいのは左右の光源の都合。

 

【オンライン限定】タクティカルサングラス YT-001 BLK SMK/H | YAMAMOTO 公式オンラインショップ | YAMAMOTO SAFETY ONLINE SHOP (yamamoto-safety-online.com)

 

 

とてもシンプルなパッケージでやってきたこの製品。現在は主に陸上自衛隊の海外派遣部隊向けに納入されているらしい「サングラス2型」とほぼ同型のサングラスになっている。実は少し前に出るかもと言う噂を聞いていたので発売を結構楽しみにしていた。

細かい説明は公式の製品紹介があるので、ここでは実際に手に取ってみての話を書いていく。なお、納入品の仕様書番号はGQ-Z158010で、記事作成時現在はウェブ上でも参照できるので、細部の形状や性能はそちらでも確認できる。今回は上記の商品説明とその仕様書を参照しつつ話を進めていく。

 

 

内容品はスモークレンズ付きの本体、セミハードケース、巾着袋(黒)。一般的な構成だと思うが、ケースのファスナーが小型のもので、経験上比較的早期に破損する感触がある点が少し心配。

 

スモークレンズは可視光透過率25%で、仕様書のスモークレンズは視感透過率が11%となっている。軽く調べた限りだと同一のものとして考えて良いように思っているが、異なるという話もありあまり自信はない。仮に同一として考えると装備品の方が濃いめのレンズということになる。また、フレームの素材はプラとなっているが製品紹介ではポリアミドと謳われているので、いわゆるナイロンのような素材が使われていると思われる。

 

本製品最大の特徴として、米国国家規格協会の規格、すなわちANSI Z87.1に準拠している点が挙げられる。国内製品であればJIS、つまり日本産業規格の保護めがねの規格であるJIS T 8147に適合している製品が一般的だが、このYT-001はANSI Z87.1に規定のある対衝撃性試験もクリアしており、フレームにその表示がされている。また、仕様書によれば、Z87だけでなく一部JISの保護めがねや遮光保護具の規格に準拠した光学的性質や耐熱性なども備えているものとされている(余談になるが、仕様書で保護めがねと遮光保護具の規格に準拠した試験方法が混在しており、どちらも同様の試験方法や基準であったのでその点は謎だった)。

 

 

※以前書いた規格の簡単な解説

 

 

レンズにも同様に規定の表示がある。因みにこちらのスモークレンズの表示は「SWANS」が製造企業、「+」が耐衝撃性有、「L2.5」がZ87の基準で公称可視光透過率22.8%(許容範囲は29%から18%まで)という意味になる。

これは余談になるが、海外製品ではレンズにも「Z87」の表示がある印象だったので違和感があったのだが、改めて調べてみるとスペクタクル(眼鏡)型では確かに表示の必要がないことになっていた。

 

こちらは別売りのクリアレンズで、可視光透過率85%以上なので遮光率の表示はない。スモークレンズと同様に耐衝撃性能を表す「+」の表示がある。

 

フレームとレンズの取り付けは先のレンズ端の切り欠きと、フレーム中央にある突起をレンズ側の凹みに合わせて固定するタイプ。取り外す際は最初にこの中央部を左右方向にずらすようにして突起との嵌合を外していく。海外製品で時折見られる脱着に異様に強い力が必要なものほどではないが、それでも多少は力もしくはコツが必要な印象だった。

 

製品紹介や仕様書に記載があるが、レンズの最大厚は約3mmで、実際に手に取ってみるとかなり分厚いのが分かる。仕様書によれば曲率半径はR87で、いわゆる6カーブに相当すると思われる。

 

ノーズパーツは左右から圧してレンズから取り外せる。手前側のステンレス心材入りエラストマーパッド部分はネジで樹脂製のフレーム側と固定されており、鼻の形状に合わせて角度を変更できるようになっている。

 

テンプルにはラバーなどは使用されておらず、長期使用による経年劣化の心配が少ない。他社製品で見られるストラップ用の穴もないが、首から下げて意図せず装着し忘れる事故は防げるかもしれない。

 

 

さて、今回たまたま手元に米国のアイプロテクション製品で有名なESS社の「CROSSBOW」があったので、少し比較もしてみた。

 

YT-001は先述の通り6カーブ相当のレンズカーブだが、CROSSBOWはより曲率の高いレンズを使用している。参考までに自分自身の顔は鼻が低く彫りの浅い一般的に言われる日本人の形状なのだが、左右幅は若干狭く若干欧米人寄りの曲線形状なのでどちらかと言うとCROSSBOWを始めとした海外製品の形状の方がフィット感が高い。しかしながら先の通り一般的な多くの日本人の顔形状にはYT-001の方がより適合するかも知れない。

 

レンズの面積的にはCROSSBOWの方が全体的に大き目で、レンズカーブの違いもあってこちらの方がより隙間が少なく装着できるように感じた。一方、顔の形状によっては頬にレンズが接触することもあるので、こちらも個人差が大きいかも知れない。また、特に国内での使用時には多湿環境で曇りやすい場面も多く、保護範囲と通気性はトレードオフになってしまう面もある。

因みにCROSSBOWはレンズ内面に曇り止めコート、外側はハードコートがされている一方、YT-001は両面ハードコートとなっている。一般的に曇り止めコートとハードコートの両立は難しいとされており、両製品の設計意図の差異となっている。

 

少し分かりにくいが、CROSSBOWのレンズは左右だけでなく上下方向にも湾曲した形状になっている。一方YT-001は鋳型の都合もあり、上下方向に曲がった形状は見られない。先のレンズカーブやサイズと併せてCROSSBOWはより広く隙間の少ない保護範囲を実現しており、設計の優秀さを感じる一面。

 

フレームの左右幅は概ね同等で、装着時の締め付けなども大差なく感じられる。大きく異なるのはテンプル長で、YT-001はかなり短くなっており、実際にかけた際もテンプルの圧力のみで固定している感が強い。仕様書によれば88式鉄帽2型にかん合するとされているので、恐らく鉄帽のうなじ当ての様な部位との干渉を避けるために設計されたのではないかと予想している。

 

レンズ厚はYT-001が最大3mm、CROSSBOWが同2.4mmとされており、実際に比較しても明らかに差がある。手で曲げようとした際も、YT-001の方がしならない硬めの感触があった。

 

このCROSSBOWのノーズ・クリップはミドルサイズで、YT-001のノーズパーツに近い高さがある。YT-001は今の所ノーズ部分のサイズ交換はできないが、幅の調節である程度各使用者への適合が見込める。

 

 

と言うわけで、ごく簡単にYT-001の紹介をしてみたが、やはり意図した用途の製品としての完成度は恐らく業界最大手といえるESS製品に比べるとまだ改善の余地はあるように思う。特にレンズの保護範囲については、用途を考えると可能な限り目を覆うような作りの方が良いのは間違いなく、より多くの頭部形状に適合する様検討していく必要性を感じた。しかしながら、先述の通り隙間の少ない形状はそれだけ空気の流れが減って曇りやすくなり、特に一般的なランニングやサイクリングといったスポーツと違い、常に風が当たるわけではない用途向け製品としては、いたずらに隙間を埋める形状にするのを避ける意図もあったのかも知れない。

それ以外の点では概ね必要な性能を備えたシンプルなサングラスとして、本来用途に合致した良い製品になっているのではないかと思う。個人的にはテンプルが短めとした形状は便利な場面も多いのではないかと感じていて、例えばサイクリング用途としてヘルメットを着用した際に、ストラップに引っかかったりその結果として意図せず落下させてしまったりする可能性の軽減が期待できる。また、保護めがねとしても頭部形状にフィットして前方への張り出しが少ないデザインは、保護帽等との干渉を避ける効果も得られると思う。さすがに保護めがねの代用としてはコスト差が大きいのでこのサングラスを直接使用するのは難しいと思うが、本来用途を鑑みても屋外での動きを伴う作業に使用に適しているのではないだろうか。

 

 

ここからは個人的なお気持ちになるが、以前より国内のスポーツサングラス製品で、目の保護を目的とした何らかの規格に適合するものがあまり出てこないことを長らく気にしていた。もちろん製品としては研究を重ねて十分な強度や保護性能を持たせているとは思うが、比較検討の際に基準となる指標がなく、実際にどこまでの性能なのかは製造企業を信じるしかないというのは個人保護具としては使用しづらく、またスポーツ等一般用途としても客観的な保護性能の評価ができないのはよろしくないのではと常々感じていた。一方で単純にJISやANSIの規格に適合した製品であれば国産品でも数多く存在するが、そういった製品では主に産業用途であるため激しい運動に対応することはあまり考慮されておらず、コスト面に配慮して軽易な作りの物も多い。そんな折に、保護めがねやスポーツサングラスで恐らく国内最大手であろう山本光学から遂に登場した日本人の頭部形状に適合したZ87かつImpact ratedのスポーツ型サングラスであるこのYT-001。書いてきたように製品として改善の余地や個人の好みは多々あると思うが、それでもこの製品がMADE IN JAPANとして製造、市販されたことは評価したい。自衛隊の装備品としての納入だけを考えても、恐らく利益の面で企業としてそれほど旨味があるとは思えない所を、自衛隊側の要望を踏まえつつ製造コストを考慮して製品を作り、更にそれが市販されて実際に使用できるのは選択の幅を広げる良い事だと思う。この製品を多くの人が手に取り、良し悪しを評価された上で更に完成度を高めたサングラスやレンズカラーなどの展開が進んでいくことを願っている。