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限りなくテキトーな米国ヘルメットの耐破片性能比較

情勢的に身動きが取れず、意図せず暇になった時間に表題について調べたものをメモ代わりに残しておく。

 

今回は著名な米国製のヘルメットであるPASGTヘルメット、ACH及びECHの耐破片性能に絞って比較していく。なお、数値についてはインターネット上で見ることができる仕様書によるが、仕様書の発行年度等により内容が異なる場合があるのであくまで参考程度に見てもらいたい。

 

 

さて、今回取り上げるヘルメットについては主に米陸軍を中心に用いられる、あるいは用いられていた標準的な形状のヘルメットとなる。それまでの鉄製からアラミド繊維製となったPASGTヘルメット、その改良型であるACH、超高分子量PEを主材料として耐小銃弾性能を付与したECHとなっている。特に最後のECHについては小銃弾に耐えるという画期的な性能を持っているが、その詳細な試験条件や弾薬の情報は仕様書上ではClassified Annex A、つまり機密指定された別紙Aに示されているということで、一般の人間が目にすることは難しいと思われる。しかし、耐破片性能は仕様書に記載されているので、それを比較することである程度性能の差が評価できると考えたのが調べる動機となった。

 

耐破片性能を調べる際に用いられる発射体にはRight Circular CylindersとFragment Simulating Projectileの2種類がある。RCCは円柱形状で、それぞれの試験条件によって異なる寸法と重量のものが用いられる。素材の硬さについてはロックウェル”C”スケールで29となっており、一般的な炭素鋼程度となっている。FSPについては砲爆弾の破片を模擬しており、円柱を一部切削したような先端と、底部の円周が傘状かつ底面が膨らんでいる特殊な形状になっている。こちらはヘルメットに用いられるものは単一形状および重量で、硬さはRCCと同じスケールで27と概ね同様となっている。この発射体をそれぞれの試験条件に沿って発射し、発射数の半数が貫通しないことが耐破片性能として求められる。

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試験条件としては、高温や低温、塩水などの環境を印加した上で各方向から発射体を撃ち込むこととなっているが、この発射体の速度がそれぞれのヘルメットによって異なり、当然ではあるが新しいものほどより高い速度に耐えられるようになっている。

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表から抜粋して比較すると、PASGTヘルメットについては仕様書上FSPのみでの評価となっているが、この項目で比較した場合PASGTヘルメットの609.6m/sに対し後継のACHでは670.56m/sと数値的には小幅の改善であるのに対し、ECHは905.256m/sと大幅な性能向上となっている。また、最も高速な発射体である直径約2.8mmの2-grain RCCではACHの1280.16m/sに対してECHでは1728.216m/sとこちらも大きく性能が向上しているのが分かる。

また、耐破片性能ではないが、ACH及びECHではこれに加えて耐貫通性能として124gr、FMJ RNの9mm弾(初速1400ft/s)を阻止することが求められている(こちらは全弾数に耐えることが必要)。

これらの基準を単純に運動エネルギーで比較すると、最も厳しい条件でそれぞれPASGT ヘルメットが約205JACHが約732J(9mm弾全弾阻止)、そしてECHが約1073Jとなる。参考までに試験用バレルから発射した62gr 5.56mm SS109が初速約950m/sで概ね1800J程度、123gr 7.62mm M43が同じく初速約740m/sで2200J程度とされている。先の通りこの試験で用いられる発射体は円柱状であり、例えば小火器弾薬とは形状や素材が大きく異なるので簡単には比較できないが、こうして見るとECHでも小銃弾を阻止するのは難しく見えるかもしれない。しかし、実際の小銃弾は当然ながら距離に応じて速度を減じていく上に、弾丸も種類によって鋼鉄から鉛まで多様な素材で作られているのでその硬度も異なる。一般的にECHでは7.62mm(おそらく7.62mm×39の事と思われる)に対する耐貫通性能を備えていると言われているが、非徹甲弾で、ある程度の距離を開けた状態などの条件付きでの阻止性能を備えていると考えられる。また、現用の5.56mmや5.45mm弾でも通常の有効射程内であっても場合によっては阻止できる可能性がある。

 

 

以上、甚だ簡単ではあるが各ヘルメットの耐破片性能についてとなる。今回は米海兵隊を中心に用いられていたLWHや、最新のIHPSヘルメットについては資料の不足により割愛したが、耐破片性能としてはLWHがACH、IHPSヘルメットはECHと概ね同等と言われている。今後も技術の進歩により性能は向上していくと思われるが、人員が使用する都合上重量や寸法の制約があるため、技術的ブレイクスルーがなければ何らかのトレードオフなしに劇的な性能向上は難しいかも知れない。また、破片や銃弾の貫通だけでなく、それに付随した後部変形や衝撃にも併せて対応する必要もある。

 

 

参考・各ヘルメットのサイズ別重量

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